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サバルタンと抵抗戦術としてのペルーク

エドワード・サイードの「オリエンタリズム」を読みました。

ポストコロニアル理論を確立した名著と言われています。

Wikipediaによると、ポストコロニアル理論とは以下のようなものです。

「ヨーロッパで書かれた小説に、アジア・アフリカなど植民地の国々がどのように描かれているか、あるいは旧植民地の国々の文学ではどのように旧宗主国が描かれているか、旧植民地の文化がいかに抑圧されてきたかといった視点で研究する」

すなわち、抑圧者と非抑圧者の関係を、帝国主義時代から現在に至るまでの、西洋とオリエント(東洋=非西洋)の関係を軸に論じたものが「オリエンタリズム」です。

ここでオリエント(非抑圧者)は「サバルタン」という立場に押し込められています。

「サバルタン」とは、「周縁化された集団や下層階級といった、エージェンシー(行為主体)たる社会的地位を与えられていない人々」を指す言葉ですが、イタリアのマルクス主義思想家であったアントニオ・グラムシが用い、ガヤトリ・C・スピヴァクなどが発展させました。

スピヴァクは「サバルタンは語ることができるか」という本を書いています。

ここでは、西洋の思想家たちは他の様々な形態の知識のありかたを神話や伝説として捉え直し、周縁化してきたのだ、と論じています。サバルタンが自分たちの声を聞いてもらうためには、まず西洋の思想、論理、言語を受け入れなければならない。自分たちのオリジナルな思想や言語をもって語ることができない、ということです。

それでは、サバルタンはどうしたら、この困難な状態を脱することができるのでしょうか。

ここでの抑圧ー非抑圧の関係は、サバルタン自らの力では克服することができないのでしょうか。

ここでの一つの戦術として、カルチュラル・スタディーズの思想家ミシェル・ド・セルトーの「ペルーク(perruque)」を紹介したいと思います。

セルトーは、周縁化された人々の日常生活における抵抗戦術として「ペルーク」を挙げました。

これはフランス語で「かつら」を指し、転じて策略や機略を意味する言葉ですが、日常的には労働の時間にこっそり自分の趣味や生活のための活動をしたり、仕事場の物品を自分のために流用することなどを意味します。

『このような他者のゲーム空間【他者のルールに従ってゲームをしなければならない空間】で自分の位置を確保しようとする戦術とそれによる抵抗は、体制の支配や管理を拒否し破壊することばかりではなく、むしろそれらに見かけ上は従順に搦めとられることじたいがすでに抵抗となりうることもある。日常生活のなかで人々は些細なペルーク/機略を通して、自分より上位にある秩序、自分を操作の対象とする体制といつのまにか渡り合い、交渉を繰り返している。日常生活における政治とは、投票やデモのような方法だけでなく、そのようにはからずも行われる抵抗としても生きられているのである』

(上野ほか『カルチュラル・スタディーズ入門』p.64)

セルトーの抵抗戦術としての「ペルーク」は、日常生活における行為を対象として研究したものですが、黒人など周縁化された人々についての大変ユニークな考察でした。

そこには、サバルタンも黙ったままではいない、体制側のルールの中で搦めとられながら巧妙に抵抗しているのではないか、というメッセージが伝わってきます。

参考文献:

エドワード・サイード「オリエンタリズム」(平凡社ライブラリー)

上野俊哉ら「カルチュラル・スタディーズ入門」(ちくま新書)


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