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アーレントの考えた「権力」

 ハンナ・アーレント(1906-1975)という思想家に最近関心を持っています。

 2013年には彼女の伝記映画も公開され、最近さまざまな分野でアーレントの再評価が進んでいるようです。

 アーレントはドイツ系ユダヤ人の政治哲学者ですが、ハイデガーやヤスパースのような大物哲学者に師事し、その後実際にナチスに迫害を受けアメリカに亡命し、戦後に「全体主義の起源」や「人間の条件」という大著を執筆しました。

 私が最初にアーレントの話を聞いたのは高校生のときでした。

 ある国語教師が、人間の活動的生活を労働(labor)、仕事(work)、活動(action)の3つに分けたアーレントの概念を説明してくれました。

 「労働」とは生存に伴う自然的な必要を満たすための行為であり、「仕事」とは特定の目的の達成をめざして行われる行為であると。そして、多くの大人たちの職業は労働(labor)になっているのが現状であるが、若い君たちは決して労働(labor)ではなく仕事(work)としての職業人を目指しなさいという、彼の話を鮮明に覚えています。

 このときは3つめの「活動」(action)については良く理解していなかったのですが、アーレントによると「活動」とは、ものや物質の介入なしに直接人と人との間で行われる唯一の活動力であり、他者同士の人間が言語によって協力または対立する行為であるとします。つまり、これによって他者同士、つまり異なる主観を持つ人間同士が相互行為を行うことのできる「政治」が可能になると彼女は考えました。

 それでは、アーレントは「権力」(power)という概念をどう考えていたのでしょうか。

 アーレントは、権力とは、自らの意思を他者の行動に強制する力、支配するための道具といった従来の考えを否定しました。

 アーレントは以下のように述べています。

『権力とは、人びとが約束をなし約束を守ることによって創設行為のなかで互いに関係し結びあうことのできる、世界の介在的(in-between)空間にのみ適用される唯一の人間的属性である。そして、それは政治領域では最高の人間的能力とみてさしつかえないだろう』

 すなわち、権力によってこそ、人間がその最高の活動形態である活動(action)を行うための公的空間を維持することができる、それは人々の約束(意思と意図の一時的な一致)によって可能となると考えていたことが分かります。

 彼女は、フランス革命は失敗であり、アメリカ革命を一種の成功とみなしていました。

 どういうことでしょうか。

 フランス革命は、人は生まれながらに平等だという思想を生みました。しかしこれは、いわばあらゆる権力や支配を否定する考えにつながってしまいます。しかし、人間が他者とともに、しかも自由な存在として生きるためには、公的なもの、つまり「政治体」が必要なのであり、自由になるために、自由を保障できる公的空間を設立する。アメリカ人はこのことをよく知っていたと、アーレントは指摘します。

 フランス革命は、絶対王政下における革命でした。人びとは、まずとにかく権力を絶対的に打ち倒さなければなりませんでした。その後、革命の目的は社会問題(貧困)の解決に転換され、ロベスピエールによる恐怖政治につながっていきます。

 それに対して、アメリカには、制限君主に代わるよりよい「権力」を構成するという発想がそもそものはじめから存在していた、そうアーレントは言います。

 アーレントの考えた、自由を保障できる公的空間を成立させるための構成要件としての権力、公的空間において活動のつかの間の瞬間が過ぎ去っても人々を結びつけておくものとしての権力、という発想はとても新鮮ですね。

 もっともアーレントは、その後のアメリカは、このような革命精神を持続・発展させることができなかったと失望しているのですが。

参考

間庭大祐:アレントの「権力/暴力」対称論の再考. 全国唯研第33回大会@一橋大会. 2010

苫野一徳:アーレント『革命について』. 苫野一徳Blog(哲学・教育学名著紹介・解説) http://ittokutomano.blogspot.jp/2012/01/blog-post_1595.html

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